私の知らない2人の間にあるもの

父が脳出血、脳挫傷で入院して初めての主治医からの説明の日

特例で短時間の面会ができるとの事で

認知症の母を連れて父が入院する病院へ

少し遠い、電車で片道2時間半…

  

私の父はクレーマーで、言うなればモンスター

店員さんにすぐ怒鳴るは、二言目には「店長を呼べ」

昨年の入院では看護師さんに説教、長時間の拘束

業務妨害で強制退院一歩手前でした

  

母に対しても支配するように指示ばかりする父

基本的に人の言う事を聞かない母にとっては煩わしいだけ

しかし、すぐに激高する父にしぶしぶ従うしかなかった

父は人格を否定するようなことも平気で言います

でも、それを母の為だと思い込んでいるのです 

 

私は子供の頃から父のことが大嫌いだったから

働き始めてすぐに家を出ました

  

だけど時は経ち、私にもいろいろあって

数年前に最後まで両親に寄り添うと決め、腹を括りました

だから前回の入院で何度となく、いろんな人に謝罪する事になっても何とか耐えました

  

でも今回の入院は違います。脳出血と脳挫傷。

命は取り留めたけどもう、ほとんど話はできません

  

入院後初めての面会で母は病床の父に駆け寄って

「会えてよかった」

と頭を撫でました

 

それがとても意外で…

そっか…あんなにひどい事されてもそう思えるんだなって

私は何度も離婚を勧めましたから

私に見えていないものが二人にはあるのだなと

2人の仲の良い姿を見たことがなかった私

限られた時間、二人が喜ぶことの手助けをしたいと思いました

  

父はとにかく母のことが好き。愛情表現には問題はありますが…

  

それから次の面会までの間に

私の知り合いの美容師さんの所へ連れて行きました

綺麗にしてもらった母を見せてあげたかったから

  

その足で早咲きの桜の咲く場所に行って写真を撮りました 

父の大好きな

母と桜 

 

父はその前の面会よりもさらに話すのが難しくなっていました

 

「お母さん、美容師さんに綺麗にしてもらったよ」

私がそう父に伝え、母が顔を近くに寄せました 

すると…

 

「可愛いよ」

上手くしゃべれない父が…

でも確かにそう言いました

  

他に何を話しかけても応えられない父

目を開いても、目が合ったり合わなかったり 

 

たったひとつ絞り出した一言は母を褒める言葉でした

 

本当に嫌いだったし辛い思いもあった

見捨ててやろうかと思った瞬間も…

 

だけど、本当にその時胸がいっぱいになって…

帰りの電車で涙が溢れました 

 

母はきっとこの事は忘れてしまう

でも

私は憶えていてあげたい

 

桜を背景に撮った母の写真は

看護師さんの計らいで父が見えるように

点滴棒で吊るしてもらいました

面会は限りがあります

会えない分大好きは母の笑顔が元気の素になればいいけどな

 

私もずいぶん変わったな… 

 

写真は父が救急搬送された日に、まだ容態が落ち着いているときに撮影したものです

これも忘れられない写真になる

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